社会医療法人全仁会 倉敷平成病院
形成外科医長
石田泰久先生
フットケア処置時における感染予防対策
糖尿病患者は世界的に増加傾向にあり2015年において世界での成人糖尿病患者数(20-79歳)は4億1500万人存在する(Diabetes Atlas 7th edition 2015)とされる。日本でも成人糖尿病患者数は720万人に達している。また高齢者人口の増加も相まって、下肢に何らかのトラブルを抱える患者は増加傾向にある。特に糖尿病患者では些細な下肢創傷が末梢神経障害や血流障害の影響により下肢の壊疽が生じ下腿部や大腿部での下肢切断に至ることもある。このような背景から日本では2 0 0 8 年より糖尿病患者のフットケアや下肢の診察について糖尿病合併症管理料が算定されるようになった。これ以降、全国的にフットケア外来を標榜する病院は増加傾向にある。
当院では糖尿病外来と併設する形で平成2 3 年1 1月にフットケア外来を開設し、足に関する疾患について診療を行っている。形成外科医による外来診療、看護師による処置外来、義肢装具士による履物外来の3 部門に分け、相互に情報共有し診療にあたっている。受診患者数は年々増加傾向にあり、その中でも処置外来受診者数はひと際増加している。処置外来受診者数は平成27年度において1ヶ月あたり平均114人となっている。
処置外来では主に胼胝・鶏眼処置、爪処置を行っている。処置器具としては爪切り、爪ヤスリ、ニッパー、コーンカッター、グラインダーを使用している。これらの器具を使用し処置を行っていく際、発生する
【図1】
帽子、ゴーグル付マスク、袖付きエプロン、手袋を着用し処置にあたっている。
爪や角質の粉塵は相当な量になり、また広範囲に飛散するため処置施行者の粉塵曝露が危惧される。J G Burrowらの報告によると爪処置での粉塵で様々な細菌、真菌が飛散しており、これによる処置施行者の健康被害が生じる可能性があるため、マスクやゴーグルの着用が必要であるとしている(1)。
また、Paul D Tinleyらは足病医50名のうち22名が鼻腔内にアスペルギルスを保有しており、またこのうち8名がドリル使用の際に、マスクを着用していなかったと報告している(2)。このため、当院では処置担当看護師は粉塵の肌や呼吸器、眼球への直接の曝露を防ぐため帽子、マスク、ゴーグル、袖付きビニールエプロン、手袋を着用し図1の様な格好で処置に当たっている。また、粉塵の空気中への浮遊を防ぐためにミスト式グラインダー(「アクアス/ A Q U A S 」、ハデウェー社製)を使用している。これを使用することで粉塵の飛散、曝露を減少させることができる。
当院で行った研究では、処置担当看護師により図2の様にゴーグルに飛散する粉塵量が異なることが分かった。飛散する粉塵量の差には担当看護師の経験年数と処置時の姿勢が影響しており、飛散量が多い看護師ほど処置経験年数が少なく、「処置を手早く終わらせること」に意識が向いており、感染予防への意識が低かった。このため処置の際に処置部との距離が近くなっておりゴーグル汚染も強くなる傾向にあった。ゴーグル汚染が少ない看護師ほど感染予防を意識し、処置部と距離をとりながら処置を行っており、今回の研究では、図3の様に被処置者の足から30㎝以上の距離をとることでゴーグル汚染が著明に減少することが分かった(第14回日本フットケア学会年次学術集会に於いて発表)。
【図2】 処置終了時のゴーグル汚染を比較
左のゴーグルを着用していた看護師の方が、 処置の際に顔を処置部に近づけて処置をしていた。
【図3】
被処置者の足から30㎝以上の距離をとることで、ゴーグル汚染が著明に軽減した。
これらの方法でも空中に飛散する粉塵を全て防御することはできず、浮遊する粉塵を吸入してしまう可能性はある。このため空気清浄器の使用や診察室の換気の励行も必要であるとされる(2)。
全国的にフットケア外来を標榜する病院は増加傾向にあり、受診者数は増加している。その中で医療従事者はどうしても手早く、多くの診察、処置を行うことに意識が向きがちである。しかし上述の様にケア時に生じる粉塵による処置実施者の健康被害の可能性を考慮すると、適切な粉塵防御策を考慮した上で処置を行っていくべきであると考える。
【参考文献】
(1) World at work: Evidence based risk management of nail dust in chiropodists and podiatrists.
J G Burrow, N A Mclarnon,; Occup Environ Med. 2006 Oct; 63(10): 713-716.
(2) Contaminants in human nail dust: an occupational hazard in podiatry? Paul D Tinley,
Karen Eddy, Peter Collier : Journal of foot and ankle research. 2014 Feb; 7